市販リチウムイオン2次電池の使用

 

1. はじめに

VR-BL71  現在の世の中ではリチウムイオン二次電池は広く使われています。携帯電話、ノートパソコン、デジカメは当たり前で、ハイブリッドカー、電気自動車用バッテリーにも使われるまでになりました。しかし、アマチュア無線の世界では一部ハンディー機内蔵電源に使われているだけで、外部電源として使われている例は聞いたことがありません。その大きな要因はリチウム電池は市販されていなかったからでしょう。

 

  しかし、今は何種類か市場に出ています。秋葉原では千石電商秋月電子にあります。特に秋月の電池は元々はシャープ製デジタルビデオカメラ用純正電池(型番はVR-BL71)で、容量は3.6V2.6AHです。ネットで価格を調べると実売価格で\6000の製品ですが、秋月では\1500でお買い得です。もちろんデジタルビデオに使うのではなく、普通の電池として利用するのが目的です。今回はこの電池の使い方(分解方法?)を紹介します。ただし、安全性等の保証をするものではありません。個人の責任で実験して下さい。

 

2. リチウムイオン電池の長所、短所

  現在のところ、アマチュア無線で広く使われている電池はシールドバッテリーかニッケル水素電池でしょう。もちろん、車で運用する場合は重さなど制限がありませんのでどんな電池でも容量が足りれば問題ないでしょうが、我々のように山岳移動する場合は重さが大問題です。昔はシールドバッテリーを担ぎましたが、ニッケル水素電池に変更して重量が半減しました。そしてリチウムイオン電池にするとニッケル水素電池の半分とはいいませんが2/3程度に重量を軽減できます。これが一番の利点です。また、別の機会に書く予定ですが、世の中には電池で駆動するための電源ICがいろいろありますが、大半がリチウムイオン電池を想定して電源電圧下限値が2.5〜3V程度であり、ニッケル水素電池だと3本必要(すげ〜半端な数)なのがリチウムイオン電池だと1本で動きます。その他に以下のような長所がありますが、同時に短所もあります。大きいのは過充電、過放電に弱いという点で、使用の際に気をつけなければなりません。まあ、無線機に使う場合は電圧が落ちると無線機の電源が落ちるので過放電はさほど心配しなくてもいいかもしれません。

 

長所

同じ容量ならニッケル水素より軽い

電池1本で3.6Vも電圧がある(本数が少なくてすむ)

メモリー効果がない

低温に強い(らしい) 

充電が簡単(後述) 

電池駆動用ICの電源範囲に適合

短所

値段が高い

種類が少ない 

過充電、過放電に弱い

発火の危険性がある(でも心配するほどではない?)

 

3. リチウムイオン電池の充電

 難しそうに考えている人が多いと思いますが、アマチュア的に妥協すれば非常に簡単です。使うのは安定化電源だけ。安定化電源の電圧を4.2Vに設定して電池をつなけばいいだけです。市販のリチウムイオン電池充電回路は定電流・定電圧充電回路と呼ばれており、充電初期は電流一定(およそ1C)で充電し、電池電圧が4.2Vになったら4.2Vの定電圧に切り替えて電流がほぼゼロになれば充電完了です。ですからアマチュア的には充電初期に1C以上流れない程度の電圧に設定し(あまり初期電流がでかいと電池を痛めるおそれがある)、最終的には4.2Vにして半日くらい放置すれば充電できます。定電流部分がないのでジワジワと充電電流が低下するため充電時間が長くなりますが我慢の範囲でしょう。一番いいのは電流容量が1Cくらいの定電圧電源で4.2Vで充電することですね。これだったら電源自体が最大で2.6Aしか流せないので充電初期の過電流を防げます。電流制限がかけられる電源でしたら同様の保護効果があります。

 

 4.2V直流電源ですので、運用終了後に車に戻って次の移動地に移動中に車内で充電することが可能です。12Vから4.2Vを造る回路は簡単ですので、電源を自作して車に積んでおけばOKです。今風ならスイッチング電源が電気を食わなくていいでしょう。電池を並列にしていっぺんに電源につないで大丈夫です(電池の消耗度合いが同じ場合)。

 

  ただし、4.2Vの電圧は相当正確でなければなりません。許容誤差は±50mVくらいです。アナログ電圧計では無理で、デジタルテスタが必要です。今までの経験ではその辺で売ってる数千円のデジタルテスタでもこの程度の精度はあります。定期校正されたプロの計測で使うデジタルボルトメータで数種類のテスタを比較しましたが、12Vを測定して誤差は10〜20mVしかありませんでした。今時のテスターは意外に高性能なのです。

 

 もし、携帯電話用リチウムイオン電池充電器が余っていれば、それが使える可能性があります(携帯電話を買い換える度に充電器が余る?)。携帯電話用電池の容量の方が少ないので、定電流部分の電流が低く充電に時間がかかりますが問題はありません。ただ、充電器によってはタイマーを持っていて、一定時間以内に充電が終わらなかった場合は強制終了する可能性もあります。その場合は何回かに分けて充電する必要がありますが、廃物利用ですので利用価値は大きいでしょう。つなぎが面倒でしょうが工夫してみて下さい。

 

4. そのまま使えるか?

 それでは秋月の電池の使い方です。ケースにはプラスマイナスの極性表示も出ているのでここに電源をつなげば充電できそうですが、そうは問屋が卸しませんでした。真ん中に「C」と書かれた電極があり、ここに何かの電圧をかけないとだめらしいのです。ここがオープンのままでは内部回路で電池が遮断され充電できませんでした。しかし、この端子にどんな電圧をかければいいのか皆目見当がつかず、しかたなく電池を分解して回路を解析することにしました。しかし、基板上のICにはメーカ名が書かれておらず、メーカを示すマークもなく調査に行き詰まりました。その結果、素電池を取り出して使うしかないとの結論に達しました。

 

 なお、ここに入っている回路は充放電保護回路です。もしかしたら充電回路も入っているかもしれません。ですから使い方が判明すればこの回路を生かして電池を保護することが可能なのですが。ほとんどのリチウムイオン電池パックは保護回路も一緒に入っていて、素電池だけというパターンはほとんど無いです。

 

5. 素電池の取り出し方

 リチウムイオン電池は安全性の問題があるのか、分解できるような構造にはなっていませんので「壊す」しかありません。ケース側面に溝がぐるっと回っていますので、そこをカッターで切断します。樹脂ケースの厚さは1mmもないので深く切りすぎないよう注意が必要です。特に長手方向の樹脂は薄く、奥まで切ると素電池を覆っている被服まで切ってしまいます(たぶん切れても問題ないが)。1周切れると上側カバーがパカっと取れます。下側は素電池にスポット溶接されたニッケル電極が基板に2カ所半田付されているのでそこをハンダゴテで外します。これで素電池取り出しは完了です。なお、作業中、電極のプラスとマイナスをショートさせないよう注意してください。この電池はフル充電に近い状態で販売されていますのでショートさせると電池を痛めてしまったり、マイナス側に入っているヒューズが飛びます。

 

 内部電池は2個並列でしたので、1.3AH×2個のようです。電池間を接続している電極を切断して切り離せば1.3AH電池として使用できます。ハンディー機などは単電池を2直列にした方が小さくて使いやすそうです。

 

 残念ながらこの電池形状は単3電池を一回り太くて長くしたもので、一般電池と形状互換性はありません。単3と同じだったら使い道が広がるんですがねぇ、残念です。電池ケースも使えません。

 

 

 6. 電池の性能 

 はたしてちゃんと2.6AHの容量があるか、購入当初に実験しました。負荷に電球を取り付け、約500mAを流して電池電圧を観察しました。その結果、ニッケル水素電池のようにある電圧で一定になるわけではなく、初期の4Vちょっとからダラダラと低下していきました。放電終止電圧は2.7V前後で、そこまで下がるのに5時間かかりましたのでほぼ表示通りの容量でした。ニッカド、ニッケル水素電池の場合は5時間率で容量表示がされていますが、リチウムイオン電池の時間率は知りません。ということで調べてみましたが、通常は放電特性を0.2Cで表していましたので5時間率でした。

 

 一昔前はリチウムイオン電池は電圧安定度が悪いと言われていましたが実際はどうでしょうか。上記のよう放電初期は4.2V近くあるのが放電終期には2.7Vまで低下するので、最初より1.5Vも落ちることになります。ニッケル水素電池の場合、放電初期電圧は1.4V程度で放電終止電圧が1Vであり、1セル当たり0.4Vの変動です。リチウムイオン電池と同等の3.6Vで考えれば3セルですので変動幅は1.2Vとなり、リチウムイオン電池と大きな差はないようです。性能は上がっているようです。

 

 7. コネクタの取付

 素電池のままでは使い勝手が悪いので電線をつけてコネクタもつけましょう。コネクタは個人の好みで選んでください。私は写真のようにしました。秋葉原に行ってナイロンコネクタがたくさん置いてある店を探し(店名は忘れた)、圧着式2ピンコネクタの中で最小の製品を選びました。そのままでは電極むき出しでショートの可能性もあるため、全体を自己融着テープおよびビニールテープで巻きました。熱収縮チューブなんか使うと美しく仕上がるでしょう。

 

8. 無線機での使用

  ハンディー無線機だとこの電池2個を直列にすれば使用可能でしょう。物によっては3個直列かも。個々のリグの必要電圧を確認して下さい。私が使っているVX-5だと2個直列でフルパワー5Wが出せます。VX-5専用電池は7.2V700mAですから、秋月のリチウムは3倍以上の容量です。外付けなので邪魔ですが、重さは大したことがないので予備電池として常にウェストポーチに入っています。

 

 出力5Wのオールバンドオールモード機FT-817では50MHzSSBで5Wを出すのにこの電池が4個直列が必要でした。3個では5W出そうとすると電源が落ちてしまいました(2.5WはOK)。FT-817で電池切れになるまで使ったことがないので持ち時間は不明ですが、3個直列で2.5W出力の場合は2時間は使えました。4個直列5W出力で1時間使用ではまだ電圧低下はみられなかったとのことですので2,3時間は使えるのではないでしょうか。

 

9.その他の電源

  リチウムイオン電池の電圧は3.6Vですので、それに適合する電気製品(電池×2本で動く物)なら動きます。代表的なのはデジカメ。ただ、電源のつなぎがネックです。これさえ解消できればニッケル水素電池より電圧が高いので、電池容量いっぱいまで使えると思います。軽いので予備電池として最適です。ヘッドライトの電源に使えるといいのですが、電圧が半端で置き換えができません。それよりも白色LEDヘッドライトを自作し、その電源とするのが得策です。電池電圧が高く、リチウムイオン電池なら1セルで白色LEDを点灯できます。

 

10. 最後に

  リチウムイオン電池はそれなりに高価ですが、山岳移動での軽量化はお金に換えられない価値があります。どうにか軽くしたいという人には、リチウムイオン電池市販は朗報です。ぜひ活用して山の上から元気な声を出して下さい。特に、今でも鉛シールドバッテリーを使っている人には劇的な軽量化が可能です。使用する無線機の消費電力と希望する運用時間によって今回のリチウム電池で間に合うかどうか変わってきますが、FT-817だったらピッタリではないでしょうか。

 

 これからは市場に放出されるリチウムイオン電池も増えて、アマチュア無線の山岳移動も徐々にリチウム電池が主流になっていくでしょう。今のうちに「最先端」を味わうのも面白いかも。

 

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