軽量2エレアンテナ製作記


<初めに>

市販品のアンテナは固定で使用することを念頭に置いているために丈夫に出来ています。この丈夫と言うことは必然的に重量に跳ね変えってしまいます。そこで、山岳移動に使いやすい下記の条件を備えたアンテナを作ることにしました。
  • 分解した時に50cmを超えないこと
    ザックに付けて運ぶことを前提にしています
  • 軽量であること(目標600g)
    ただでさえ人より重たい荷物(無線の道具)を持って歩く訳ですから
  • 分解組み立てが楽で道具を必要としないこと
    道具を忘れた時に山の上では手に入りませんから
  • 十分利得があること
    言わずもがなです

まずベースになるアンテナですが、「軽量」と「利得」の2つを満足するアンテナと言うことで「2エレ」にすることにしました。エレメントは多いにこしたことはありませんが・・・

次にマッチング部分は、1992年8月号のCQ誌にJA6AX/浦上氏が発表した「2エレ位相給電アンテナの制作」で紹介している方法を使うことにしました。(この記事は28MHz用のアンテナについて書いてあるのですが)このマッチング方法は、2本のエレメントからの給電点までの距離でマッチングをとると言ったもので、ショートバーなどのパーツを必要としませんので軽量化に貢献します。


<軽量化>

アンテナの軽量化をするには、エレメントとブームに使用するアルミパイプを細くしてしてしまうことが考えられます。ただこの方法の欠点は、強度が落ちることと周波数帯域が狭くなってしまうことです。しかし、使用目的が山岳移動用ですからアンテナが壊れる程の強風の中で運用することは考えられませんし、運用周波数もほとんど決まっていますので問題にならないでしょう。

ところがなかなか細いパイプが見つかりません、あっても径がそろってなかったり肉厚が厚かったりします。そんななかで見つけてきたのが、「光モール TEL:0729-56-0025」と言う会社からでている「アルミ丸パイプ」です。これは、全長1mで肉厚0.5mm・直径が3mm〜10mmの1ミリ刻みで8種類あります。これだけの種類があれば言うこと無しです。肉厚も0.5mmですからこれだけで普通のアルミパイプ(肉厚1mm以上のパイプ)で作ったアンテナの半分の重さで出来きる計算になります。ブーム用には、同じ「光モール」からでている。「アルミチャネル」を使用することにしました。これは、コの字型のアルミの棒です。これに直接アンテナを固定することによってエレメントクランプを省略します。

材料が見つかった所で使用する径ですが、強度と軽量化の両面から考えてアルミパイプは6mmと5mmを、アルミチャネルは10mmと12mmを使用することにしました。


<コンパクト化の工夫(エレメント編)>

エレメントは下図の用にベースは全て6mm径のパイプを使い、ジョイント用に50mmに切断した5mm径のパイプを使用します。5mm径のパイプは片側をネジ止めして外れないように固定します。これで5mm径のパイプが付いた「A」に「B」差し込めばエレメントの完成です。


上から6mm径のパイプ
5mm径のジョイント
6mm径のパイプです。

            A                               B
6mm径   ----------|-----              ----------------- 6mm径
          5mm径 --|-------------        糸
(a)...............|.......................................(b)端を固定する
                --|------------- 
        ----------|-----              -----------------
            2mmのネジで固定する

ただ、このままでは簡単にパイプが外れてしまいますのでこれを固定する為に(a)と(b)の間に糸を通して、これを引っ張って固定します。見た目は、キャンプで使用するターフなどを固定するポールの構造に似ています。また、この(a)(b)の間を結ぶのに使用する材料は糸でなくゴムなどでも良いのですが、私が色々ためした結果では糸(水糸)が一番安定するのでこれにしました。

この方法で必要な長さ分ジョイントすれば、見た目は6mmのアルミパイプの棒が完成します。後は携帯の事を考えて一本のパイプの長さを最長でも50cm以下で作成するようにします。

この方法でエレメントのジョイント部分を固定すると、「ネジなどのパーツを使用しないぶん軽量化」、「糸を引っ張るだけで組み立て完了」、「全てのパイプが糸で繋がっているので紛失することが無い」などの利点が上げられます。

欠点としては電気的な接合の甘さが出やすいので、パイプを良く磨くなどして注意が必要です。


<コンパクト化の工夫(ブーム編)>

ブームには「アルミチャネル」を使用します。これはコの字型のアルミ板です。これですと、エレメントを固定するのにエレメントクランプなどを使わなくても直接ネジどめすることができます。
ただこのアルミチャネルは風などによる曲げには弱いです。強度で考えるなら丸棒の方が良いのですが、エレメントの固定方法、分割した時のジョイント方法、マストへの固定方法などの問題が私なりに解決できていなので現在はこれを使用しています。

 ブームは持ち運びの時の長さを考えて(MAX50cm)、真中に12mm、そして両サイドには10mmのアルミチャネルを使い下図のように3分割で作成します。

       エレメント                       エレメント
           ●                                                      ●
        ------------------------                ------------------------
10mm    |                      |                |                      |   10mm
        ------------------------                ------------------------
           △             ---------------------------              △
          ネジ            |        ○     ○        |             ネジ
                          ---------------------------
                             △       12mm        △
                            ネジ                 ネジ

<給電部>

給電部は下図の用になります。位相給電ですのでもちろん左右のエレメントは電気的に独立していて接続していません。この構造で給電点が50オームになります。いたって簡単な構造です。組み立てた後に調整する部分もありませんのでSWR計などをもち歩く必要もありません。

また製作後の調整は、Reで主にSWRの設定、Raは周波数合わせをしますがお互いに干渉します。

 各部の長さは下記の式で計算します
 l  = 0.193λ
 L = 1/4λ × 0.67
 a = l × 0.67
 b = b’= L − a

製作には、L、b’には3D2Vを使用します。給電点は今回は、プラスチックケースを加工しましたがT型コネクターを使用すると簡単に作成できます。

※各部の長さを自動計算してくれるエクセルファイルを 星野 隆敏@JA1VUC さんが作ってくれましたのでここに掲載しますので、ご利用ください。 「自動計算エクセルファイル




<ポールの軽量化>


ポールは一般的には4.5mのアルミポールを使用している人が多いですが、これは岩場などを歩く時に意外に邪魔になります。そこで私はこのアンテナ(2エレ)を使用する時には「ケーブルフィシャー」と言う物を使用しています。これは、構造的には釣り竿と同じです。(グラスファイバーのポールです)ですが釣り竿よりズートしなりません。本来の用途は天井裏のケーブル引き込みに利用する道具です。
スペックは「縮小時:41cm、伸長時:5m、 重量:800g」です。これを使うようになってから、全ての道具がザックに入る用になりました。

写真は、ブームと一緒に写しています。ブームとの接続は2枚の板で挟むようにして固 定します。


<各部のサイズ>

基本周波数 f=50.2MHz
λ=5.976m  1/2λ = 2.988m  1/4λ = 1.494m 
名称算式理論上の長さ実測値
Ra  1/2λ X 0.931 2782mm1407mm X 2
Re  1/2λ X 0.984 2940mm1493mm X 2
l  λ  X 0.193 1153mm1153mm
L  1/4λ X 0.67 1001mm 1001mm
a  l   X 0.67 773mm 773mm
b=b' L - a 228mm 228mm


<部品一覧>

部品名個数
肉厚0.5mmのアルミ丸パイプ 直径5mm X 長さ1000mm 1本
肉厚0.5mmのアルミ丸パイプ 直径6mm X 長さ1000mm 6本
肉厚1mmのアルミチャネル 幅10mm X 長さ900mm 1本
肉厚1mmのアルミチャネル 幅12mm X 長さ900mm 1本
直径10mmのプラスチックの丸棒 1本
プラスチックケース W30 X H20 X D40 3個
ネジ 2mm X 長さ8mm 12個
ネジ 3mm X 長さ20mm 4個
ネジ 3mm X 長さ10mm 6個
3mmのチョウネジ 4個
ケーブルストッパー 4個
M型コネクター(BNCでもOK) 1個
3D2V 1.5m
その他 水糸など - 


<製作>

●エレメントの加工

まずはエレメント用のパイプ加工から始めます。作業のなかでこれが一番大変な所です。(^_^;)

まずは、6mm径のパイプ6本全てを真中から切断し長さ500mmのパイプ12本にします。次にいま作った500mmのパイプ4本をまた真中から切断して長さ250mmを8本作成します。そして最後に、250mm2本を200mm2本にします。ここまで出来た所でパイプの断面をヤスリがけして平らに整形します。この200mmのパイプは最終的には141mmのパイプに加工します。(長さ調整をする為に長くして起きます)

こんどは、直径5mmのパイプから長さ50mmの部品を12個切り出します。そして、表面を紙やすりで磨きます。(このパイプの表面は絶縁されているので、きれいに絶縁剤を磨き落とします)

ジョイント金具が出来たら、6mm径のパイプにさしてみます。スムーズに入らない時は5mmのパイプの表面と6mmのパイプの内側をヤスリで磨きスムーズに入る用に調整します。この時につないだ2本のパイプ間の導通も確認してください。(導通性能を維持するのがこのアンテナの製作ポイントです。これを怠ると風などでSWRがふらふらするアンテナになってしまいます)

●ジョイント部品の加工

プラスチックの丸棒から100mmの部品を2個切り出します。この棒は、左右のエレメントが接続しないようにするのと中間部分の強度を付けるために使用します。

次に、プラスチックケースに丸棒が通る穴とエレメントのネジ止め用の穴を開けます。このプラスチックケースは給電用同軸ケーブル接続部の保護とエレメントクランプ変わりに利用します。


加工が終わった各部品です。ここまで出来れば半分終わったも同じです。写真は、6mmに5mmのジョイントをはめ込んであります。ジョイントは6mmのパイプの端から15mm付近に2mmの穴を開けて固定します。


●エレメントの組み立て


プラスチックケースにプラスチックの丸棒を差します。

次に、250mmのパイプを差してネジ止めします。この時左右のエレメントが接触しないように注意して作成します。このネジの所に給電用の同軸を接続します。



エレメントの中心部分が出来たら、プラスチックケースから10mmぐらい離れた所に2mm径の穴をドリルでパイプの片側に開けます。そしてこの穴から糸を通して行きます。糸の終端は最後のパイプのネジに掛ける用にして固定します。


●ブームの加工


幅10mmのアルミチャネルを半分に切断し、端にエレメント接続用の溝を彫れば完成です。次に、幅12mmのアルミチャネルを430mmに切断します。

●給電部分の製作


エレメンの部分に給電用の同軸を接続します。この時に接続する向きに注意してください。


●完成したアンテナの調整風景


給電用の同軸を計算通りに作成すれば、ほとんど無調整で完成します。

●製作&調整用機器

左から、電動性コンパウンド
電気性能が落ちない用に6mmと5mmの接合部に塗って起きます。

次が、接点復活剤です
これがなぜあるかと言いますとこの溶剤の使用方法はパイプ面の研磨に使用します。理由は解りませんが、6mmと5mmの接合部にこれを塗って磨くと滑りがとっても良くなります(?)

最後が、MFJ社の「SWR ANALYZER」です。
これは、アンテナ製作の必需品です。このSWRアナライザーと言うのは、製作したアンテナの共振周波数がどこか解る測定器です。ですから、このメータを見ながらアンテナを調整していけば希望周波数に簡単に合わせる事ができます。


ほるす( 後藤 @ JR1NNL )