超軽量! FT-690(mk2)用山岳移動専用50Wリニアアンプ






FT-690mkと
今回製作する50Wリニアアンプ
(FTー690mk2上段の黒い箱)
リニアアンプの大きさに注目!!






はじめに

 6mの山岳移動では、現在では唯一のポータブル機になってしまったFT-690mk2がよく使われていて、2.5Wでは飽きたらない人のために専用の10Wリニアアンプ FL-6020が販売されています。それでも不足の人のためには50WアンプとしてHL-66Vが販売されてます。しかし、HL-66Vは10Wのドライブ電力が必要ですので10WリニアアンプのFL-6020も同時に持っていく必要がり、荷物がかさばり重量も重くなります。それに消費電力も大きくなり、大きな電池を用意しなくてはなりません。そこで、HL-66Vに対抗して小型化、軽量化を最優先に考えた、山岳移動専用FT-690mk2用50Wリニアアンプを製作しました。このアンプの最大の特色はFT-690mk2の2.5W出力で50W出力が可能なことで、FL-6020は不要です。ただし、本体側に簡単な改造が必要です。このアンプはFT-690では無改造で使えますし、パワーは30W程度に落ちますがピコ6でも無改造で使えます。


小型化・軽量化の決め手は?

 上記のFT-690mk2+FL-6020+HL-66Vの構成ではどうしても重くなります。誰でも簡単に思いつくのが「2.5Wのドライブで50Wを出せるアンプがないだろうか?」という疑問でしょう。これが実現できれば10Wアンプが不要になり一気に軽量化できます。しかし、世の中にはこんな性能のアンプは市販されていません。では技術的に不可能なのでしょうか? ところが、若干使いにくくはなりますが実現可能なのです。短波用のトランジスタを使用した場合は利得が低くて2.5W程度ではせいぜい25Wまでしか出せませんが、VHF用のトランジスタなら1W程度の入力でも50W近く出せる計算になります。実はHL-66Vもその様なトランジスタを使用していて、アンプに内蔵されている減衰器で10Wの信号を1Wまで落とし、それから50Wに増幅しているのです。つまり、基本的には1W->50Wのアンプなのです。ではどうして一見無駄とも思える構成にしているかというと、VHF用のトランジスタは元々はFM用に設計されていて、一定電力の信号の増幅では問題がありませんが、SSBのように信号電力が変化すると入力インピーダンスが大きく変動し、ドライブ電力の大きさによってSWRも大きく変化します。そこで見かけ上のSWRを向上させリグへの負担を減らすためにわざわざ減衰器を入れているのです。この構成ですと広い範囲の信号レベルで低SWRが実現でき、50MHz帯の全域で使えます。また動作も安定しますので量産には都合がよいのです。
 今回は不安定要素を抱えることにはなりますが、SSB/CWの帯域でしか使用せず、親機はFT-690(mk2)に限定することによって減衰器を取り外してアンプを直接ドライブすることにしました。これにより、2.5Wでも50Wの出力が得られます。これでFL-6020は不要になり、軽量化の第1歩が達成です。
 しかし、まだ軽量化の余地があります。HL-66Vの蓋を開けて中身を見ると分かりますが、アンプの基板には大した部品は乗っていません。HL-66Vがでかくて重いのは、放熱板が原因です。これが無くせれば相当な軽量化ができそうです。さて、それは可能か? 答えはYES。ただし条件付きですけど。
 今回製作するリニアアンプの使用目的は山岳移動専用機です。一般に山岳移動では電源の制約上から短時間の運用で、モードはSSBが中心です。SSBではオペレータの声の大きさに比例して出力が変動し、何もしゃべっていないときには電波は出ません。これに対し、FMでは声を出しても出さなくてもいつも同じ電力が出ています。つまり、おなじ送信状態でもSSBはFMと比較して平均電力が小さいと言えます(ただしピークの電力は同じ)。電力が小さいと電源の消耗が少なく長時間の運用が可能ですし、発生する熱も小さいのです。FMとSSBでの平均電力の比較を定量的に行った資料は見たことがありませんが、経験的にはSSBの方が1/2から1/3くらいでしょうか(もっと小さいかも知れない)。それだけ放熱板が小さくて済みます。HL-66Vでは、設計した人がFMのラグチューでも放熱が間に合うようにあれだけ大きな放熱板に決めたのでしょう。しかし、SSBでしか使わないと限定してしまえば小さくしても構いません。これが軽量化の第二段です。用途を限定するだけで、何の努力もせずに軽量化できてしまうのです。世の中にそんなコンセプトの製品が存在しないのは、ニーズが少ないからでしょう。


回路の説明

 リニアアンプの回路自体はごく有り触れたもので、目立った特徴はありません。各種雑誌の回路を参考にしました。ただし、先述のように入力のインピーダンスがレベル、周波数によって大きく変わるので帯域幅が狭くなってSWRが1.5以下の周波数帯域は約500KHzです。むろん、今回はSSB/CWしかターゲットにしていないので問題ありません。出力には高調波によるTVI防止のために、定K型ローパスフィルタを3段挿入しています。しかし、これでも充分とは言えず、山奥では周囲に人家はないので問題ありませんが、住宅地付近で使う場合には外付けでフィルタを追加するのが無難です。
 送受信切換回路が通常のアンプと異なっています。一般に、リニアアンプは親機がどんなリグでも接続できるようにキャリアコントロール方式を採用していますが、これですと電波が出てから切り替わるまでに時間がかかり、会話の頭が途切れます。特にCWですと短点が消失することもあります。そこで、今回は親機を改造して、送信時には同軸ケーブルの芯線にDC電圧を乗せるようにします。アンプ側ではDCとRF信号を分離し、DC電圧でトランジスタスイッチを駆動します。トランジスタスイッチは2石で構成し、最終的には中電力PNPトランジスタで電源をON/OFFします。また、外部スタンバイ端子も用意しました。


まずはリグの改造

 本体はなるべくでしたら触りたくありませんが、一度この改造をしておくと他のリニアアンプを接続したり、トランスバータやプリアンプなど、付加機器の送受信切換に広く応用できて便利です。それほど難しい改造ではないので、保証期間が切れていたり、自作をする人なら改造をお奨めします。ただし、改造による故障は筆者は責任を持ちません。各自の責任で行って下さい。過去に2台の改造を行いましたが支障はありませんでした。勿論、FT-690mk2の接続図を調査し、回路的に支障がないからこそ改造したのですが。
送信時に同軸芯線にDC電圧が乗るように、部品(フェライトビーズ及び抵抗)を追加します。改造箇所は比較的やりやすい所にあるので、それほどリグをバラさなくても改造可能です。部品点数も2点だけで簡単です。この方法ですと、リグとリニアアンプの接続は同軸ケーブルだけで良く、使い勝手、信頼性が向上します。TXBは、リグ背面のFL-6020との接続部分にあります。金属板が縦に3つ並んでいる中で基板に「TXB」と書かれているのですぐに分かります。パネル面のBNCコネクタの芯線は、手先が器用な人ならパネルをバラさなくても半田付けできますが、不慣れな人は半田ごてでケースを溶かす恐れがあるので、前面パネルのネジを外して隙間を空けてから作業した方が無難です。抵抗には予備半田しておくと作業がスムーズにいきます。
 改造後の動作確認は、FL-6020を外して690mk2をCWモードにしてPTTを押したときに、フロントパネルのBNCコネクタの芯線に8V程度が出ていることを確認すればOKです。


部品を集めよう

FT−690用50Wリニアアンプ 部品表
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|       品   名       | 個数 | 購入場所 |
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|2SC2630            |  1 |真光無線  |
|2SC1815            |  1 |千石電商  |
|2SB1375            |  1 |千石電商  |
|10D1               |  2 |秋月電子  |
|赤色LED              |  1 |千石電商  |
|緑色LED              |  1 |千石電商  |
|LM317T             |  1 |秋月電子  |
|100P    50V フィルムトリマ|  2 |千石電商  |
|40P    500V フィルムトリマ|  1 |千石電商  |
|68P    500V マイカ    |  6 |鈴商    |
|47P     50V セラミック  |  2 |千石電商  |
|330P    50V セラミック  |  1 |千石電商  |
|0.001uF 50V セラミック  |  3 |秋月電子  |
|0.01uF  50V セラミック  |  9 |秋月電子  |
|10uF    16V 電解     |  3 |秋月電子  |
|39Ω   1W           |  1 |千石電商  |
|51Ω   1W           |  1 |千石電商  |
|220Ω  1/4W         |  1 |千石電商  |
|2.2KΩ 1/8W         |  1 |千石電商  |
|3.3KΩ 1/8W         |  1 |千石電商  |
|4.7KΩ 1/8W         |  2 |千石電商  |
|1KΩ 半固定VR          |  1 |千石電商  |
|フェライトビーズ           |  4 |千石電商  |
|ベーク生基板             |  1 |秋月電子  |
|HB2−DC12V          |  1 |T−ZONE|
|電源スイッチ             |  1 |千石電商  |
|BNC−R              |  2 |千石電商  |
|3.5mmJACK          |  1 |千石電商  |
|放熱板(120×80)        |  1 |千石電商  |
|ケース(YM−130)        |  1 |千石電商  |
|1M3×10 ネジ          | 14 |      |
|卵ラグ                |  4 |シオヤ電気 |
|ゴムブッシング            |  1 |千石電商  |
|0.8D−2V            |50cm|小柳出電線 |
|ビニール導線             |50cm|      |
|φ1mmポリウレタン線        | 1m |小柳出電線 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−+−−−−−−+
 早速製作を開始しましょう。部品表に従ってパーツを集めます。少しくらい定数が異なっても問題ありません。近い値の物で代替しましょう。ただし、2SC2630、ローパスフィルタの68PFコンデンサは値を守って下さい。2SC1815は小信号NPNトランジスタなら何でも使えるでしょう。2SB1375も中電力PNPトランジスタで100mA程度コレクタ電流が流せれば可です。出力系のコンデンサの耐圧は500Vが望ましいのですが、50Vの物でもギリギリ大丈夫です。ただし、アンテナのSWRが高くて運悪く定在波の腹がコンデンサにかかるとパンクする恐れがあります。コネクタは使い勝手、軽量化を考えてBNCにしましたが、少しでもコストダウンしたい人はM型でもかまいません。ただし、コネクタの大きさがケースの高さいっぱいなので、少しでもケースの穴位置がずれるとコネクタが付きませんので工作精度に注意が必要です。ケースは指定の物よりも大きければ問題ありません。これより小さいと、それなりの自作の技術がないと難しいでしょう。リレーは高周波用が理想的ですが、この程度の周波数なら一般的な小信号用で使えるでしょう。ただし電力用リレーはダメです。基板はベークで構いません、というよりも作業性を考えるとベークの方がいいです。ガラエポだとガラス繊維のせいですぐにカッターや鋸、ドリルの歯がダメになってしまいます。また、薄い基板の方が加工が楽です。その他雑多な物としてはシリコングリス、エポキシ接着剤、瞬間接着剤等があります。参考のために筆者の購入場所も書き添えました。


必要な工具は?

 ラジオペンチ、ニッパー、ピンセット、半田こて、金鋸、ハンドドリル、ドリルの歯(3mm,4mm,5mm)、ハンドドリル、ヤスリ、リーマ、カッター、Pカッター、万力、定規です。ドリルの歯はいろいろな直径の物が10本組程度でまとめて売られている物が後々まで便利に使えます。これらの物が全て揃っていないと製作できないわけではありません。手持ちの工具を活用して下さい。でも、よく自作をするのなら持ってますね。ボール盤があるとケース加工にかかる時間は半減できますが、ここまで持っている人は少ないでしょう。でも、これは凄く便利です。アンテナ工作やケース加工を良くやる人は、持っていても損はありません。ただ、高価なのと大きくて置場所に困るのが難点。私はボール盤を所有しているローカル局の所に行って加工しています。


製作開始!

 それでは製作に入りましょう。本当なら詳細な加工方法を記述するのが親切ですが、そこまで書くと1冊の本になってしまいます。ケース加工や基板加工、半田付けの詳細は電子工作入門のガイド本を参考にして下さい。ここでは電子工作の基礎知識のある人が読者であると仮定して話を進めます。
 大ざっぱな作業手順は以下の通りです。
(1) 放熱板の加工
(2) ケース加工
(3) 基板加工
(4) 基板の半田付け
(5) 基板単体調整
(6) ケースへの基板の組み込み
(7) 総合調整

 一番面倒なのが放熱板及びケース加工です。また、出来上がったときの外観の良否に一番大きく関わりますので手を抜かないように。また工作精度も必要です。特に、放熱板にトランジスタの取付穴を開ける場合、フィンとフィンの間に穴位置が来ないと工作が大変です。今回使用した放熱板ではフィンの間隔が狭く、注意して穴を開けないと片方の穴がフィンに重なってしまいます。穴を開ける際は必ずトランジスタと現物合わせを行い、うまく取り付けられることを確認します。取付穴はφ2.5mmの下穴を開けてφ3mmのタッピングで仕上げます。私が使った放熱板では4隅に穴が開いていたのでケースとの取付穴を開ける必要はありませんでした。ただし、穴径がφ3.5mmなので3mmのタップを切ることができず、若干の手間がかかりますがナットで固定します。もちろん4mmのタップを立てて4mmネジで固定しても構いません。

 放熱板の加工が終わったら次はケース加工です。放熱板をテープ等でケースに仮止めし、4隅の穴に合わせてケースとの固定用穴を開けます。そしてトランジスタの取付位置を確認し、トランジスタが直接放熱板に取り付けられるように四角く穴を開けます。ケースのアルミ板を介して放熱板に接触させるよりもこの方が良好な放熱効果が得られます。穴を開けたらトランジスタがきちんと取り付けられるか(穴位置のズレが無いか)現物で確認します。前面には電源表示と送信表示のLEDの穴を開けます。一般的なLEDの直径は5mmです。背面は入出力のコネクタ、電源スイッチ、電源ケーブル、外部スタンバイジャックの穴を開けます。ただし、FT-690、ピコ6、もしくはDC重畳に改造したFT-690mk2を親機に使用する場合は外部スタンバイジャックは不要です。それぞれ現物と合わせながら作業します。終わったらバリを取っておきましょう。

 次に基板の加工です。まず、ケースに入りきる大きさに基板を切断します。金鋸でも構いませんが、ベーク基板ならPカッターで充分切断できます。ギリギリの大きさだと作業時の誤差でケースに入らないこともありますので、少し小さめにします。そして放熱板のトランジスタ取付穴に合わせてトランジスタのパッケージの形状に取り付け穴を開けます。これを開けないとトランジスタが基板に邪魔されて放熱板に取り付けられません。四角い穴を開けるのは面倒ですが頑張って下さい。これも現物あわせで行います。トランジスタの取付穴開けが終わったら基板をテープ等でケースに仮止めして、放熱板とケースの取付穴に合わせて穴を開けます。  これでケース加工はおしまいです。基板もバリを取り、スチールウールで表面を磨いてフラックスを塗り乾燥させます。


組立前の下ごしらえ

 いよいよ半田付けに入る前に下準備が必要です。今回の製作では回路が簡単なのでプリントパターンを起こさずに、先に作った基板の上に小さな基板の切れ端(ランド)を瞬間接着剤で貼り付けて、その間に部品を乗せます。この方がかえって基板製作の手間がかかりませんし、グランド面が広く取れるので安定した動作が期待できます。1cm四方程度のランドを20個くらい作っておきましょう。これも磨いてフラックスを塗ります。

 もう一つ準備。データを参考に空芯コイルを巻きます。組み立てた後で調整が効くのでさほど精度は必要ありません。寸法に神経質にならずに気楽に作って下さい。バイアスのRFCはフェライトビーズに電線を3回通して作ります。各コイルとも足の部分は導線の被覆を削って予備半田して下さい。


心臓部 基板の組立

全体像

入力部のクローズアップ

出力部のクローズアップ

さて、いよいよ基板の半田付けです。図を参考にしながら、現物に合わせながらランドを貼り付けて半田付けしていきます。最初に2SC2630を半田付けし、ここを基準に回りの部品配置を決めます。トランジスタを半田付けするときには、放熱板やケースの穴位置に合わせる必要があるので、放熱板、ケース、基板を借り組みし、トランジスタを放熱板にネジで固定してからエミッタを基板に半田付けします。基板単体でトランジスタを半田付けしてしまうと、ケースに組み込んだときにトランジスタのネジ穴と放熱板の穴がずれてネジが入らない!なんてことになります。それとトランジスタの向きにも注意して下さい。逆に付けても構いませんが、その場合は周辺の部品も逆になります。ここまでやったらケースから基板を外して作業します。位置の精度が必要なのは2SC2630の穴だけです。
 トランジスタを固定したらコレクタ、ベースの部分にランドを張り付け、半田付けし、周辺の部品を順次半田付けします。空芯コイルは相互結合を避けるためにできるだけ距離を離すように配置します。直角に配置するのも有効です。これを守らないとスプリアスの増加や自己発振の原因となります。バイアス部の10D1は、2SC2630の上面に接触させて、シリコングリスを塗って熱的に結合させます。LM317には小型の放熱板を取り付けて下さい。抵抗、コンデンサ等の部品の足はできるだけ短くカットして、最短距離で半田付けして下さい。安定動作の秘訣です。部品を取って再利用しよう、なんて考えて足を長めにしてはいけません。動作不良のトラブルに泣かされます。イモ半田にも注意。また、時々ケースに入れてみて、部品がコネクタやスイッチに当たらないか確認して下さい。リレー周囲の配線はケースに組み込む段階で行いますのでまだ行わないで下さい。図に示した範囲を組み立てます。

最大の山場 単体調整です

 基板をケースに組み込む前に、基板単体でリニアアンプの動作をするか確認します。ケースに組み込んでからトラブルを発見しても、物が小さいので作業しにくく、せっかく組んだのをまたバラすことになりますので、基板単体でしっかりと調整を済ませましょう。ここで動作の確認を行えば、ケースに組み込んでから動かない場合は基板以外の部分が悪いのは明らかで、故障の切りわけが簡単ですばやく故障個所が特定できます。調整に必要な物は下記の通りです。
・終端型電力計(MAX50W以上) 無ければ通過型電力計とダミーロードを組み合わせて使用。
・SWRメータ
・テスタ(8A程度の電流計、15V程度の電圧計)
・電源装置 13.5V 10A以上 できれば電流制限機能付きが望ましい
・ワニ口電線
・接続用同軸ケーブル
・トリマ調整用の絶縁物でできた調整棒
 まず、入力と出力にコネクタ付きのケーブルを半田付けします。そうしないとリグやSRWメータ等と接続できません。1.5D-2Vで作っておくと引き回しがしやすくて重宝します。リグやSWRメータとの接続ケーブルも1.5D-2Vが適当です。20cmくらいの長さの物を2、3本作っておくと何かと便利です。電源ケーブルも付けます。電源ケーブルの+,-間の抵抗値をテスタで測定し、数kΩ以上ならOKです。ゼロだったり、非常に低い値の時にはどこかで電源系統とGNDが接触したり、パスコン関係が不良と思われます。チェックして下さい。試験中はトランジスタが発熱するので、基板は放熱板に取り付けます。試験中は常に発熱の状態に注意し、過熱気味の場合はファンで風冷しながら行ったり、少し休んで冷えるのを待って下さい。

 図のように接続し、690をFMモードにして、自分のよく使う周波数に合わせます。2.5Wで送信し、SWR計の表示は無視してパワーメータだけ見ながら、入力マッチング回路の2つのトリマ、続いて出力マッチング回路の2つのトリマを、出力が最大になるように調整します。もし、トリマの羽がいっぱいに入ったり、逆に抜けきったところで最大パワーになる場合は、コイルを延ばしたり縮めたりして、もう一度調整します。どうしてもうまく行かないときにはトリマと並列に入っている固定コンデンサの値を増減したり、コイルの巻き数を1回増減させて再調整します。ほとんどの場合はコイルの巻き数を変更する必要はないはずです。うまく調整できれば40W近く出ます。なお、調整中はまだアンプのSWRが高い状態で、親機に悪影響を与えますので、できるだけ短時間の送信で調整して下さい。
 次にSWRメータを見ながらSWRが最低になるように入力の2つのトリマを調整します。若干パワーが落ちますが、仕方ありません。SWRは悪くても必ず1.1以下にできます。
 以上の調整は、まだバイアス電流を流していませんのでブースターとしての動作ですが、いよいよリニアアンプとしての調整に入ります。とは言っても今までの調整でほとんど終わっています。まず、LM317近くの半固定抵抗を真ん中付近に設定します。出力側のRFCを外して電流計モードにしたテスタを接続します。2SC1815のベースに5KΩの抵抗を仮に半田付けし、抵抗を電源と接続します。するとテスタに電流が流れます。この電流値が400mA程度になるように半固定抵抗を調整します。調整できたらRFCを元に戻します。
 電源を再投入してパワーメータの振れを見ます。このとき、リグは受信状態のままにして下さい。当然ながら、入力がないので出力も無いはずですが、もしパワーメータの針が振れていたらアンプが発振している証拠です。きっと電流計の振れも大きいでしょう。このままでは使えないので、ベース側の抵抗を小さくしたり、パスコンのセラミックコンデンサを追加したり、入力側のRFCと並列に1kΩ程度の抵抗を入れたり、トランジスタ上に入出力を分離するようにシールド板を立ててみます。でも、図のように部品配置を真似すればたぶん発振はしないでしょう。オリジナルの部品配置は、発振しにくいように考慮して決定していますし、私の実験環境では10台製作して10台とも発振しませんでした。

 発振しないことが確認できたらFT-690を送信状態にして、パワー最大、SWR最低になるようにトリマを再調整します。でも、今までの調整でベストポイント近くにあるはずで、ほとんどトリマを回す必要はないでしょう。パワーはさっきよりも若干増えて40W以上出るはずです。
 ここまでくれば、全体の90%は完成したようなものです。基板単体は立派なリニアアンプとして動作しました。


いよいよ最終組立

 調整の完了した基板をケースに組み込みます。要所に小型コネクタを使用すれば簡単に基板をケースから取り外せるようにできますが、コネクタ代がバカにならないので、直接ケーブル等を半田付けします。したがって、修理で基板を取り出すには何カ所も半田を外さなくてはいけないので、作業は慎重に行います。
 まずケースにコネクタを取り付け、そして基板を組み込みます。最初に基板を固定してしまうとコネクタが基板上の部品に当たって入らないことがあります。ケース内にあまり隙間が無いのが原因ですが、小型化のためには我慢です。基板を固定したら電源スイッチ、LEDを取り付けます。送受切換リレーは銅テープでシールドしましたが、たぶんしなくても問題ないでしょう。ただ、シールドするとピンの近くまでGNDがくるので、同軸ケーブル等の半田付けの時に楽になります。コネクタのアース側は、卵ラグで基板のGNDと接続します。同軸ケーブルの外皮に頼るよりも、しっかりした接続ができます。内部配線用の同軸ケーブルは0.8D-QEVを使って下さい。1.5D-2Vでもいいですが曲げ半径が小さくできず、配線に苦労します。大した距離ではないので損失も気にならず、0.8D-QEVの方が作業性が大幅にアップするのでお奨めです。
 作業が終わったら配線ミスがないか入念にチェックして下さい。ここまでできたのに壊したのでは泣けてきますよ。


これが最後、総合調整です

 最初は上図からSWRメータを抜いてセットアップします。モードをCWにしてPTTを押し、リレーが切り替わることを確認します。もし切り替わらない場合は送受信切換部をチェックしてください。次に入力側にSWR計を入れます。この状態ですとSWR計のタイプによりますが、PTTを押しても送信状態にならない時があります。これはものによってはSWRメータ内部がDC的に絶縁もしくはショートされているためです。このときは、2SC1815のコレクタをワニ口クリップ付きのケーブルでGNDに接触させて、強制的にリニアアンプを送信状態にして下さい。リグから送信してSWRが下がっていることを確認します。もし上がっていたらトリマを再調整します。また、出力が最大になるようにも調整して下さい。OKなら蓋を閉め、SWR、パワーを確認します。若干出力の増減はありますがさっきとほぼ同じなら完成です。パワーの低下が気になる人は、蓋を閉めた状態でパワーが最大になるように再調整して下さい。どうです? 45Wくらい出たでしょう。40W以上出ていれば合格です。電流は出力電力によりますが、45W程度なら6A程度に収まっていることと思います。動作が確認できたらLEDが引っ込まないようにケース内部でエポキシで固めてしまいます。これでLEDの頭が押されても大丈夫、エポキシの接着力は相当です。


注意事項など

  (1)  アンプの放熱板は、山岳移動でのSSB運用に必要な最小限の大きさです。気温の
       高い場所やFMで長時間運用するときには過熱に注意して下さい。
  (2)  誤って10Wを入れるとトランジスタを破壊する恐れがあります。ドライブ電力には十分
       注意して下さい。
  (3)  内部は電源逆接続保護ダイオードにより保護されていますが、逆接続するとダイオード
       が導通して電源ケーブルには非常に大きな電流が流れ、ケーブルが燃える恐れがあり
       ます。
       必ず外部に6〜10Aのヒューズを入れて下さい。
  (4)  一応ローパスフィルタが入っていますが、人家のない山岳運用用に作っています。
       スプリアス抑圧が充分であるといえるか不明ですので、固定で使用する場合は
       ローパスフィルタを外付けすることを推奨します。もしくはトロイダルコアを使用したフィルタを
       内部に追加して下さい。
  (5)  小型化/低コスト化のために高周波系のコンデンサの耐圧にはあまり余裕がありませ
       ん。アンテナのSWRが高いと定在波がコンデンサの耐圧を越えて故障の原因となります。
       極力、アンテナのSWRは低く保って下さい。


最後に

 いかがだったでしょうか。山岳移動と用途を限定することにより、市販品よりもはるかに小型・軽量化したアンプができました。コスト的にもHL-66Vの半額以下でできたことでしょう。今となってはリグの自作では性能、コストともメーカ製品にはかないませんが、リニアアンプは充分自作のメリットが出ます。6mくらいの周波数ですと、それほどシビアな技術は要求されないので、ちょっと経験がある人ならきっと完成できると思います。小型・軽量なので山に持って行くには最適です。自作の機器で電波を出して遠くの局とQSOできたときの感激は格別です。みなさんも自作品で電波を出す楽しみを味わって下さい。


DE JS1MLQ 川田聡